2013年08月28日

夏目漱石全集 こころ (要するに私は正直な路(みち)を~) (ショップ:楽天ブックス)

【送料無料】こころ [ 夏目漱石 ]

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価格:1,260円(税込、送料込)



■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
 要するに私は正直な路(みち)を歩くつもりで、つい足を滑らした馬鹿ものでした。もしくは狡猾(こうかつ)な男でした。そうしてそこに気のついているものは、今のところただ天と私の心だけだったのです。しかし立ち直って、もう一歩前へ踏み出そうとするには、今滑った事をぜひとも周囲の人に知られなければならない窮境(きゅうきょう)に陥(おちい)ったのです。私はあくまで滑った事を隠したがりました。同時に、どうしても前へ出ずにはいられなかったのです。私はこの間に挟(はさ)まってまた立(た)ち竦(すく)みました。
 五、六日経(た)った後(のち)、奥さんは突然私に向って、Kにあの事を話したかと聞くのです。私はまだ話さないと答えました。するとなぜ話さないのかと、奥さんが私を詰(なじ)るのです。私はこの問いの前に固くなりました。その時奥さんが私を驚かした言葉を、私は今でも忘れずに覚えています。
「道理で妾(わたし)が話したら変な顔をしていましたよ。あなたもよくないじゃありませんか。平生(へいぜい)あんなに親しくしている間柄だのに、黙って知らん顔をしているのは」
 私はKがその時何かいいはしなかったかと奥さんに聞きました。奥さんは別段何にもいわないと答えました。しかし私は進んでもっと細(こま)かい事を尋ねずにはいられませんでした。奥さんは固(もと)より何も隠す訳がありません。大した話もないがといいながら、一々Kの様子を語って聞かせてくれました。
 奥さんのいうところを綜合(そうごう)して考えてみると、Kはこの最後の打撃を、最も落ち付いた驚きをもって迎えたらしいのです。Kはお嬢さんと私との間に結ばれた新しい関係について、最初はそうですかとただ一口(ひとくち)いっただけだったそうです。しかし奥さんが、「あなたも喜んで下さい」と述べた時、彼ははじめて奥さんの顔を見て微笑を洩(も)らしながら、「おめでとうございます」といったまま席を立ったそうです。そうして茶の間の障子(しょうじ)を開ける前に、また奥さんを振り返って、「結婚はいつですか」と聞いたそうです。それから「何かお祝いを上げたいが、私は金がないから上げる事ができません」といったそうです。奥さんの前に坐(すわ)っていた私は、その話を聞いて胸が塞(ふさが)るような苦しさを覚えました。


■『こころ』などの著作権が切れている作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)でも読むことができます。
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2013年03月18日

[ 夏目漱石 ] <収録作品は『こころ』などです> 夏目漱石全集(8)(ショップ:楽天ブックス)



■目次
こころ/道草


■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
 先生と話していた私は、ふと先生がわざわざ注意してくれた銀杏(いちょう)の大樹(たいじゅ)を眼(め)の前に想(おも)い浮かべた。勘定してみると、先生が毎月例(まいげつれい)として墓参に行く日が、それからちょうど三日目に当っていた。その三日目は私の課業が午(ひる)で終(お)える楽な日であった。私は先生に向かってこういった。
「先生雑司ヶ谷(ぞうしがや)の銀杏はもう散ってしまったでしょうか」
「まだ空坊主(からぼうず)にはならないでしょう」
 先生はそう答えながら私の顔を見守った。そうしてそこからしばし眼を離さなかった。私はすぐいった。
「今度お墓参(はかまい)りにいらっしゃる時にお伴(とも)をしても宜(よ)ござんすか。私は先生といっしょにあすこいらが散歩してみたい」
「私は墓参りに行くんで、散歩に行くんじゃないですよ」
「しかしついでに散歩をなすったらちょうど好(い)いじゃありませんか」


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2013年03月06日

<『文章』などの作品が収録されています> 芥川龍之介全集(5) [ 芥川龍之介 ](ショップ:楽天ブックス)



■目次
仙人/庭/一夕話/六の宮の姫君/魚河岸/お富の貞操/おぎん/百合/三つの宝/雛/猿蟹合戦/二人小町/おしの/保吉の手帳から/白/子供の病気/お時儀/あばばばば/一塊の土/不思議な島/糸女覚え書/三右衛門の罪/伝吉の敵打ち/金将軍/第四の夫から/或恋愛小説/文章/寒さ/少年/文放古/桃太郎/十円札/大導寺信輔の半生/早春/馬の脚/春


■青空文庫から『文章』を一部抜粋
「堀川さん。弔辞(ちょうじ)を一つ作ってくれませんか? 土曜日に本多少佐の葬式がある、――その時に校長の読まれるのですが、……」
 藤田大佐は食堂を出しなにこう保吉(やすきち)へ話しかけた。堀川保吉はこの学校の生徒に英吉利(イギリス)語の訳読を教えている。が、授業の合(あ)い間(ま)には弔辞を作ったり、教科書を編(あ)んだり、御前(ごぜん)講演の添削(てんさく)をしたり、外国の新聞記事を翻訳(ほんやく)したり、――そう云うことも時々はやらなければならぬ。そう云うことをまた云いつけるのはいつもこの藤田大佐である。大佐はやっと四十くらいであろう。色の浅黒い、肉の落ちた、神経質らしい顔をしている。保吉は大佐よりも一足(ひとあし)あとに薄暗い廊下(ろうか)を歩みながら、思わず「おや」と云う声を出した。
「本多少佐は死なれたんですか?」
 大佐も「おや」と云うように保吉の顔をふり返った。保吉はきのうずる休みをしたため、本多少佐の頓死(とんし)を伝えた通告書を見ずにしまったのである。
「きのうの朝歿(な)くなられたです。脳溢血(のういっけつ)だと云うことですが、……じゃ金曜日までに作って来て下さい。ちょうどあさっての朝までにですね。」
「ええ、作ることは作りますが、……」


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posted by 62646 at 02:33| 小説 | 更新情報をチェックする
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